西日本豪雨によりお亡くなりになられた方にお悔やみを申し上げます。避難所での生活を強いられている方々の体調悪化が心配される中、沖縄県立中央病院の高山義浩氏が被災地における感染症対策について緊急寄稿くださいました。(編集部)


 大規模災害に引き続く集団の避難生活では、しばしば感染症アウトブレイクの可能性が報じられ、そのたびに被災者は緊張と不安を募らせます。今回の大規模豪雨による被災地においても、感染症についての不安が広がっていく可能性があります。

 ただし、被災地だからと、むやみに特殊な思考回路を持ち込むべきではありません。決して被災地は原始状態に帰るわけではありません。人々の結束はむしろ固くなりますし、(少なくとも日本の被災地では)衛生面の自治的な配慮が維持されるのが通常です。適切な支援体制を取っていけば、特殊な感染症の流行をみることはありません。あくまで日常の延長線上で、どのような感染症のリスクがあるかを考えればよいのです。

 以下、豪雨被災地の感染対策で注意したい5つのことを紹介します。また、主に入院医療機関において注意したいことも紹介します。そして、最後に被災地で活動しようとしているボランティアの方々に心掛けていただきたい大切なことをお伝えします。

1)安全な水を飲用すること

 浸水していないエリアであっても、井戸水は汚染されている可能性があります。水質検査で確認されるまでは飲用しないようにしましょう。また、一度浸水した家屋の貯水タンクの水が安全であるかも不明です。貯留タンクを含む水道配管の破損状況を確認し、水道水が汚染されていないことを確認するようにしてください。

 水源の汚染が否定できないときには、飲用前に煮沸処理を行って緊急の感染対策とすることができます。とはいえ、なるべく飲用水とはせず、ペットボトルのお茶や飲料水を活用するのが安全でしょう。

 安全な水を十分に確保できないときは、速やかに支援が得られるよう、行政や支援団体などに強く要請します。被災下における節水は大切な心掛けです。たとえば、食器の洗浄を避けるため、使い捨ての紙皿などを活用することも検討してください。

 なお、入院患者を抱える医療機関においても、水と食事を持続的に提供できるかどうかが存続のカギとなります。ライフラインが断絶している場合には、安全な飲用水と食糧を確保した上で、糖尿病食、低カリウム食などの特別食も含めて、カセットコンロなどにより基本的な調理ができる体制を整えることが求められます。平時からの備えと訓練が問われる状況と言えます。

2)適切な数のトイレを確保し、そこでのルールを守ること

 避難所のトイレが不足して待ち時間が長くなると、高齢者(特に女性)は水分摂取を控えるようになってしまいます。トイレまでに段差があったり、屋外に設置されていたりすると、身体機能が低下している高齢者の中には、オムツの着用を受け入れてしまう方もいます。これらは、いずれも尿路感染症のリスクを高めています。

 誰もが利用しやすいようトイレを整備することは、被災地の感染対策において最も大切なことです。また、日ごろ、オムツや尿とりパッドを使用しているような方については、申し出なくとも手に入るような場所においておくといった工夫も必要です。

 日本人はトイレを清潔にすることにこだわる傾向がありますが、被災地の限られた人員と資源でトイレの清潔を保つことは困難です。むしろ、トイレのあとに手洗いをしっかりするとか、トイレと居住空間の履物を別にするといったことで、「トイレは不潔なものだ」という認識を持つことの方が感染対策上は有効でしょう。

 なお、医療機関が被災したときには、トイレ以外にも生物学的な汚染(バイオハザード)が発生している可能性があります。臨床検査室、特に細菌検査室の破損状況の確認は急いでください。そして、適切な消毒清掃が可能になるまで、立ち入り禁止区域として設定するようにします。

3)感染症の症状があるときは、早めに医師に相談すること

 災害のときには、皆が苦労しているということで、自分のことを後回しにしてしまう傾向があります。特に日本のお年寄りはそうです。けれども、感染症については、早期に診断して、早期に治療することが有効です。発熱、咳、嘔吐や下痢といった症状があるときは、我慢せずに申し出るように呼び掛けましょう。

 必要なときには、マスクを着用するなど感染対策に協力いただく必要があります。特に避難所で生活されている方は、周囲を守るためにも、自分自身の健康に気を配っていただければと思います。

 被災した医療機関では、もともと感染対策を要する患者がいながらも、物理的な破損や電力の途絶などによって混乱する可能性があります。ここで非常時だからと甘い対策を容認していると、のちのち感染症のアウトブレイクを来してしまうこともあり得ます。院内感染対策の担当者は、ライフラインが停止している状態であっても、代替的な対策を検討しなければなりません。

 例えば、陰圧装置が作動していない状況の空気感染対策(麻疹、結核など)については、窓を開け放して風通しを良くすることが安全かもしれません。断水している状況の手指衛生については、刷り込み式のアルコールで代用しますが、クロストリジウム属、ノロウイルスなどアルコールで不活化できない微生物については、水を入れたペットボトルを流し台に配置して、流水による手洗いを行う必要があります。