西日本豪雨によりお亡くなりになられた方にお悔やみを申し上げます。被災地でも連日30℃を上回る日が続き、避難所での生活を強いられている方々の健康状態が心配されます。被災地での熱中症対策や健康管理の方法について、帝京大学附属病院高度救命救急センター長の三宅康史氏に聞きました。


――避難所生活を強いられている方々の熱中症が心配です。

帝京大学附属病院の三宅康史氏。

三宅 高温多湿で風通しの悪い避難所では、熱中症のリスクは高まります。被災地では水が不足しがちで、近くに清潔なトイレもないということになると、ついつい水分補給を控えてしまいがちです。熱中症を予防するには、十分な水分補給が何より大事です。また、扇風機の風を当てて身体を冷やすなどの対策も重要です。汗をかいている場合には熱中症対策用の塩飴などでの塩分補給も必要ですが、食事で十分な塩分を摂取していれば水やお茶の飲用でも構いません。

 避難所で脱水症状が疑われる人がいたら、まずは経口補水液を飲ませつつ、状況が改善しなければ病院での治療を検討してください。その際、経口補水液の吸収が良くなるよう少量ずつ飲ませるのがポイントです。味が嫌いなどの理由で経口補水液を飲みたがらない人には、こだわらずスポーツドリンクで代用するのも良いでしょう。

 また、復興支援を担うボランティアの方々も、熱中症には注意が必要です。高温の屋外で作業するわけですから、十分な休憩を取りつつ、水分や塩分の補給を欠かさないようにしてください。作業への慣れ不慣れには個人差があるでしょうから、作業の振り分けや時間管理、食事や宿の手配などのマネジメントが万全でなくてはなりません。支援する側が熱中症になって、現場の負担を増やしてしまっては本末転倒ですから。

 ただ、被災地で懸念されるのは熱中症だけではありません。水分が不足すると血圧や血糖値が上昇するリスクがありますし、エコノミークラス症候群にも注意が必要です。また、トイレが汚れている上に十分に手を洗えない環境下だと、ノロウイルスなどの感染症の危険性が高まります。真夏ですので食中毒にも気を付けなければいけません。さらに、被災された方々は強い精神的ストレスを抱えており、慣れない環境では不眠に陥る場合も多いですから、メンタル面のケアも重要です。熱中症対策だけにこだわることなく、少しでも快適な環境の整備と、きめ細やかな健康管理を行う必要があります。

――様々な健康上のリスクがある被災地で、支援を行う医療従事者は特にどのような点に注意すべきでしょうか。

三宅 健康状態の悪化を早期に見つけることが重要です。そのためには、高齢者や基礎疾患を抱える患者などを中心に、血圧、脈拍、体温、体重を毎日測定し、健康状態をモニタリングする必要があります。保健師などが被災者のバイタルデータを測定した上で、食欲の有無や排尿、排便の回数を聞いたり、家族に様子の変化がないか尋ねたりしつつ、状態が悪くなっていないかを確かめます。必要があれば病院に搬送し、検査や治療を行うことも検討します。患者の状況を踏まえた総合的な判断が求められるという点で、在宅医療と共通する部分は多いでしょう。

 熱中症対策や様々な疾患を防ぐという意味では、発症リスクの高い人は避難所を離れて近隣の被災していない地域に移ることが本来は望ましいです。今回の豪雨水害の被災地は広範囲に及んでいますが、近隣地域ではほとんど被害を受けておらず、医療機関や宿泊施設が十分に機能しているという場合も多いようです。これから真夏を迎える中で、避難所で涼しく快適な環境を提供するのには限界がありますから、被害のない近隣地域のホテルや旅館に宿泊場所を提供してもらう方が、熱中症などのリスクを大幅に下げることにつながります。その際には、同じ地域の被災者は同じ宿で受け入れるなどの配慮があると、精神的ストレスも軽減できるでしょう。

 とはいえ、被災者本人の事情は最大限考慮しなければなりません。慣れ親しんだ地や家族の元を離れたくないという希望は尊重すべきですし、被災した家の片付けを見届けたいという人も少なくないでしょう。こうした本人の希望と健康上のリスクを鑑みつつ、本人のベストを一緒に考えることが、被災地支援に入る医療従事者には求められると思います。昼間は体調に注意しつつ被災地で家の片付けに参加して、夜は近隣地域の快適な環境下で休息するといった臨機応変な対応も必要です。

 また、重要なのは、支援に入る医療者は、被災者をどのようにその土地の医療体制に戻していくのか、すなわち、どう引いていくのかをよく考慮しながら、支援をすることだと思います。

 医療支援に入る医療者は、自分の専門領域に関しては最先端の診療を行っている方もおり、普段現地で入手しにくい治療薬かどうかはあまり考えず、一番良いと思う治療を行うでしょう。しかし被災者が元の生活に戻れば、近所にその領域の専門医がいないことの方が一般的で、地元のかかりつけ医にほぼ全ての診療をお願いしている場合が多いのです。また、地方では医薬品の入手のしやすさが異なることもあります。

 支援に入った際は、私自身も自分が考えるベストの診療をしますが、なぜそのような診療をしたのかを現地の医療機関の先生方に丁寧に引き継ぐ姿勢が重要だと思います。